合同会社の従業員による社員権の取得勧誘について本気出して考えてみた
2023.11.01
目次
1.はじめに
こんにちは弁護士のスガオです。
今回は、合同会社の従業員が当該合同会社の社員権の取得勧誘を業として行うことが、いかなる場合も「金融商品取引業」に該当することになったことについて、金融商品取引法(以下「金商法」)の基本的な概念も踏まえて解説したいと思います。
なお、私自身の経歴について簡単に触れておきますと、私は弁護士資格を持つ任期付き公務員として、財務省関東財務局の証券取引等監視官部門で証券検査官を務めていました。
2.「有価証券」という概念について
「有価証券」は、金商法の適用範囲を画するための基本的な概念の1つとなります(なお、もう1つの基本的な概念が「デリバティブ取引」となります)。
合同会社の社員権は、金商法2条2項3号により、有価証券とみなされます。
3.「金融商品取引業」とは
金融商品取引業の定義は金商法2条8項にあります。
具体的には、金商法2条8項1号から18号までに掲げる行為のいずれかを業として行うことと定められています。
また、金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができません(金商法29条)。
なお、金商法29条の規定に違反して登録を受けないで(すなわち、無登録で)金融商品取引業を行ったものに対するサンクションとして以下ものがあります。
- 裁判所の禁止又は停止命令の対象となる(金商法192条1項)。
- 氏名等の公表の対象となる(金商法192条の2)。なお、金融庁は以下のサイトにおいて「無登録で金融商品取引業を行っているとして、金融庁(財務局)が警告書の発出を行った者の名称等」を公表している。
- 刑罰の対象となる。
- 個人:「五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(金商法197条の2第10の4号)。
- 法人・団体:5億円以下の罰金(金融法207条1項2号)。
4.自己募集について
一定の有価証券について有価証券の募集・私募を業として行うことは金融商品取引業に該当します(金商法2条8項7号)。
「有価証券の募集」、「有価証券の私募」の定義は金商法2条3項に定められています。
詳細な説明は割愛しますが、要は、発行者自らが有価証券の販売勧誘を行う行為となります(以下「有価証券の募集」と「有価証券の私募」とを総称して「自己募集」といいます。)
自己募集が金融商品取引業に該当することになる一定の有価証券は金商法2条8項7号イ~トまでに掲げられております。
合同会社の社員権ついていえば、合同会社の社員権が「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合」(金商法2条8項7号ト、金商法施行令1条の9の2第2号、定義府令※16条の2)には、その自己募集は金融商品取引業(その中でも「第二種金融商品取引業」)に該当します(金商法28条2項1号)。
※金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令
5.有価証券の募集・私募の取扱い
「取扱い」について金商法において定義規定はありませんが、有価証券の発行者など他人のために、有価証券の募集・私募などを代行する行為であると解されています。
有価証券の募集の取扱いと有価証券の私募の取扱い(以下、総称して「有価証券の募集・私募の取扱い」といいます)を業として行うことは、どのような有価証券であっても、金融商品取引業に該当します(金商法2条8項9号)。
有価証券の種類にかかわらずどのような有価証券であっても、金融商品取引業に該当する点は、自己募集の場合と異なるところです。
金融商品取引業のうちどれに該当するかですが、合同会社の社員権が電子移転記録権利に該当する場合には、その募集・私募の取扱いは第一種金融商品取引業に該当します(金商法28条1項1号)。
それ以外の場合(電子移転記録権利に該当しない場合)は、その募集・私募の取扱いは第二種金融商品取引業に該当します(金商法28条2項2号)。
6.小括
合同会社の社員権については、その発行者が合同会社となる場合には、その合同会社の従業員による取得勧誘は自己募集に該当します。
そのため、合同会社の社員権が「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合」という場合を除いて、合同会社の従業員が社員権の取得勧誘を業として行ったとしても、金融商品取引業には該当しません。
他方、合同会社の社員権が合同会社以外の場合(例えば、業務を執行する社員が発行者となる場合)には、合同会社の従業員が(業として)取得勧誘を行うことは、有価証券の募集・私募の取扱いとなるため、金融商品取引業に該当します。
このように合同会社の社員権の発行者が誰か(合同会社かそれ以外か)によって、合同会社の従業員による取得勧誘が金融商品取引業に該当するかどうかの帰結に影響するため、発行者が誰かということが重要になります。
7.合同会社の社員権の発行者
⑴ 前提
合同会社の社員権の発行者が誰になるのかについては、金商法2条5項、定義府令14条3項2号に定められております。
定義府令14条3項2号については、証券取引等監視委員会からの「建議」を受けて改正(令和4年10月3日より施行)されたものになります。
定義府令14条3項2号
3 法第二条第五項に規定する権利の種類ごとに内閣府令で定める時に有価証券として発行されたものとみなされる内閣府令で定める者は、次の各号に掲げる権利の区分に応じ、当該各号に定める者とする。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 二 法第二条第二項第三号に掲げる権利 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める者
イ 当該権利が法第三条第三号に掲げる有価証券に該当しない場合
次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める者
(1) 当該権利が特定有価証券(法第五条第一項に規定する特定有価証券をいう。次号イ(1)において同じ。)に該当する場合 業務を執行する社員
(2) (1)に掲げる場合以外の場合 当該権利を有する者が社員となる合名会社、合資会社又は合同会社
ロ イに掲げる場合以外の場合 業務を執行する社員
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改正後の内容について、以下のベン図を使って説明したいと思います。
- 全体集合U:合同会社の社員権
- 部分集合A:合同会社の社員権のうち、「その出資総額の百分の五十を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う」もの。
- 部分集合B:合同会社の社員権のうち、電子記録移転権利に該当するもの。
⑵ 解説
ア 総論
定義府令14条3項2号では、そのイとロにおいて以下の2つに場合分けされています。
- ①金商法法3条第3号に掲げる有価証券(以下「適用除外有価証券」)に該当しない場合
- ②適用除外有価証券に該当する場合
①については、さらにその⑴と⑵において以下の2つに場合分けされております。
- ➊特定有価証券(金商法5条1項)に該当する場合
- ❷それ以外の場合
イ 適用除外有価証券に該当するかどうかの場合分けについて
適用除外有価証券に該当しない場合とは、合同会社の社員権についていえば、以下のいずれかに該当する場合となります(金商法3条3号イ⑵、同ロ)。
- 有価証券投資事業権利等
- 電子記録移転権利
少しややこしいですが、金商法3条3号のイ⑴~⑶、ロでは、”適用除外有価証券に該当しないもの”が掲げられておりますので、適用除外有価証券に該当しない場合とは、金商法3条3号のイ⑴~⑶、ロのいずれかに該当する場合となります。
合同会社の社員権が有価証券投資事業権利等となるのは、「その出資総額の100分の50を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う合同会社の社員権」のうち、電子記録移転権利に該当しないものです(金商法3条3号イ⑵、施行令2条の10第3項。「ロに掲げるものに該当するもの」、すなわち電子記録移転権利に該当するものは有価証券投資事業権利等から除かれる)。
「電子記録移転権利」とは、金商法2条3項柱書において定義されており、いわゆるブロックチェーン上で発行するトークンとなります(もっとも、適格機関投資家等の間でのみ流通するための措置が講じられているものは除きます)。
すなわち、合同会社の社員権については、①定義府令14条3項2号イの場合=適用除外有価証券に該当しない場合=有価証券投資事業権利等か電子記録移転権利のいずれかに該当する場合=本件ベン図のAまたはBの部分(以下の色がついている部分)となります。
また、合同会社の社員権については、②定義府令14条3項2号ロの場合=適用除外有価証券に該当する場合=有価証券投資事業権利等か電子記録移転権利のいずれにも該当しない場合=本件ベン図のAでもなくBでもない部分(以下の色がついている部分)となります。
この場合、合同会社の社員権の発行者は「業務を執行する社員」となります。
ウ 特定有価証券に該当するかどうかの場合分け
前述のように、①適用除外有価証券に該当しない場合(定義府令14条3項2号イ)については、さらに、➊特定有価証券(金商法5条1項)に該当する場合(定義府令14条3項2号イ⑴)と❷それ以外の場合(定義府令14条3項2号イ⑵)とで場合分けがされています。
合同会社の社員権の場合、➊特定有価証券に該当するのは、以下のものになります(金商法5条1項、施行令2条の13第7号、同第10号)。
- 有価証券投資事業権利等
- その出資総額の100分の50を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う合同会社の社員権のうち、電子記録移転権利に該当するもの
前述のように、合同会社の社員権の場合、有価証券投資事業権利等に該当するのは、「その出資総額の100分の50を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う合同会社の社員権」のうち、電子記録移転権利に該当しないものとなります(金商法3条3号イ⑵、施行令2条の10第3項)。
そのため、上記のⅰとⅱを合わせると、合同会社の社員権のうち「その出資総額の百分の五十を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う」ものとなります。
すなわち、合同会社の社員権について➊特定有価証券に該当する場合とは、合同会社の社員権のうち「その出資総額の百分の五十を超える額を有価証券に対する投資に充てて事業を行う」場合であり、それは本件ベン図でいえばAの部分(以下の色がついた部分)となります。
この場合も、合同会社の社員権の発行者は「業務を執行する社員」となります。
そして、①適用除外有価証券に該当しない場合(定義府令14条3項2号イ)で、➋特定有価証券(金商法5条1項)に該当しない場合は、本件ベン図でいえば以下の色がついている部分となります。
この場合については、合同会社の社員権の発行者は「合同会社」となります。
8.まとめ
まとめますと以下のような帰結になります。
- 2022(令和4)年10月3日以降、合同会社の従業員が当該合同会社の社員権の取得勧誘を業として行う場合は、「金融商品取引業」に該当する。
- 合同会社の社員権が以下の色がついている部分に該当する場合、その発行者は「業務を執行する社員」となるため、合同会社の従業員が業として取得勧誘を行うことは、有価証券の募集・私募の取扱いになる。
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- さらに、合同会社の社員権が以下の色がついている部分に該当する場合、当該社員権は「電子記録移転権利」に該当するため、そのような合同会社の社員権について合同会社の従業員が取得勧誘を行うことは、第一種金融商品取引業に該当する。
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- それ以外の場合は、第二種金融商品取引業に該当する。
- 合同会社の社員権が以下の色がついている部分に該当する場合、合同会社の社員権の発行者は合同会社となるが、その自己募集は「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合」に該当するため、合同会社の従業員が業として取得勧誘を行うことは、金融商品取引業のうち第二種金融商品取引業に該当する。
合同会社の従業員が当該合同会社の社員権の取得勧誘を業として行う場合は、どんなときも「金融商品取引業」に該当するという結論を押さえておくことが重要ですが、その結論に至る条文を押さえることは金商法の深い理解につながると考えます。
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