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証券取引等監視委員会の「建議」:弁護士が解説

2023.11.01

1.はじめに

こんにちは弁護士のスガオです。
今回は、証券取引等監視委員会(以下「委員会」)の「建議」について解説したいと思います。

 

委員会が行う「勧告」については別のブログ記事に解説していますが、委員会が行う「建議」も、「勧告」と同様に委員会の重要な役割の1つとなります。

 

証券検査における「勧告」:弁護士が解説

 

なお、私自身の経歴について簡単に触れておきますと、私は弁護士資格を持つ任期付き公務員として、財務省関東財務局の証券取引等監視官部門で証券検査官を務めていました。

 

 

 

2.証券取引等監視委委員会の「建議」って何?

委員会が行う勧告の根拠となる法令は金融庁設置法21条となります。

 

金融庁設置法21条では、委員会は、証券取引検査等の結果に基づき、必要があると認めるときは、必要と認められる施策について内閣総理大臣、長官又は財務大臣に建議することができると定められています。

 

それでは、委員会が実際に行った建議の具体例(「合同会社」による社員権の取得勧誘についてについての建議)について見ていきましょう。

 

 

 

3.「建議」の具体例:「合同会社」による社員権の取得勧誘について

⑴ 概要

委員会は、令和4年6月21日付けで、「合同会社」による社員権の取得勧誘について内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、建議を行いました。

 

証券取引等監視委員会:金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について(令和4年6月21日)

 

 

当該建議をうけて、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」)が改正され、改正後の内容は令和4年10月3日から施行されています。

 

金融庁:「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について(令和4年9月12日)

 

 

⑵ 何が変わったの?

定義府令の改正により、合同会社等(合同会社・合資会社・合名会社)の従業員(使用人)による社員権の取得勧誘が金融商品取引業(以下「金商業」)に該当するかどうかについて重要な変更がなされました。

 

具体的には以下のとおりです。

改正前 2022(令和4)年10月3日以降
  • 合同会社等の従業員が業として行う社員権の取得勧誘は、”特定の場合”を除き、金商業に該当しない。
  • ”特定の場合”とは、合同会社等の社員権が特定有価証券(金商法5条1項)に該当する場合である。
  • 合同会社等の従業員が業として行う社員権の取得勧誘は、金商業に該当する。

 

すなわち、改正前は金融商品取引業に該当しないとされていた場合(すなわち、合同会社等の社員権が特定有価証券に該当しない場合)であっても、令和4年10月3日以降は、金商業に該当することになります。

 

なお、定義府令14条3項2号、3号を改正することにより上記の帰結となること解説については別の機会に行います。

 

 

⑶ なぜ建議することになったの?

「合同会社」による社員権の取得勧誘について建議が行われた背景について解説します。

 

まず前提として、委員会は、その取組みとして、登録業者による未公開株式及びファンド等の販売・勧誘等の重大な金融商品取引法違反行為に対して、金商法第192条第1項に基づく裁判所への禁止・停止命令の申立て及びそのための調査(金商法第187条第1項に基づく調査)を行っています。

 

なお、金商法第187条第1項に基づく調査は、委員会だけではなく、関東財務局においても行われております

(参照 財務省財務局70年史の278ページ)

 

「合同会社」による社員権の取得勧誘は、委員会の取組みである無登録業者等への対応に関連することから、委員会によって建議が行われました。

 

そして、建議が行われた背景については、委員会は、概要、以下のように述べております。

  • 近年、合同会社の社員権に対する出資と称して、不適切な投資勧誘を行っているという外部からの相談や苦情が多数寄せられいる。
  • しかしながら、定義府令の改正前の法律では合同会社の従業員による社員権の取得勧誘は大部分が金融商品取引業に該当しないため、証券監視委の調査権限が及ばない状態である。
  • そのため、投資者保護を強化するためには、合同会社の従業員による社員権の取得勧誘についても金融商品取引法の適用範囲を拡大するなどの対策が必要である。

 

 

なお、正前の委員会の対応ですが、改正の内容を理解するのに役立つ事案がありますので、こちらも紹介します。

具体的には、合同会社GPJベンチャーキャピタルについての事案となります。

 

当該事案について、委員会は以下の対応を行いました。特にⅡ.の対応が委員会の建議の内容と関連するものとなります。

  1. 合同会社GPJベンチャーキャピタル、その代表社員1名、専務執行役員1名の3名(以下「当社ら」)が、一般投資家に対して、①同社の社員権の取得勧誘と②集団投資スキーム持分の取得勧誘を行っており、これらの行為がいずれも金商法第28条第2項第2号に規定する「第二種金融商品取引業」に該当するとして、金商法第192条第1項に基づき裁判所に対して申し立てを行った。
  2. その後、「合同会社の社員権が特定有価証券に該当しない場合、当社が行う当該合同会社の社員権の取得勧誘については金融商品取引業登録が不要となったこと」を踏まえて、委員会は①についての申し立ては取り下げた。

 

(参照 証券取引等監視委員会:合同会社GPJベンチャーキャピタル及びその代表社員等2名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所の禁止及び停止命令の発令について(令和2年9月11日))

 

 

 

4.おわりに

今回は委員会の「建議」について、具体例とともに解説しました。

 

合同会社等の社員権の取得勧誘については金融庁も注意喚起を行っておりますので、ご注意ください。

 

金融庁:合同会社等の社員権の取得勧誘にご注意ください!

 

 

また、登録が必要となる金融商品取引業に該当するかどうかの法的判断については専門的な知識が必要となります。

 

このような相談については、ウルトラ法律事務所までお気軽にご相談ください。